よく聞く喫煙者の方から「自分たちは高額納税者だから医療費を使わないともったいない」なんてことをたまに耳にします。理屈としてはタバコの費用の中に税金がかかっているのでその分、他のひとより多く納税しているため、納税分は還元を受けるべきということになります。
冗談で言っているのか、本当にそう思っているのかはわかりませんが、一つ疑問としてタバコの納税費は医療負担費より高いのでしょうか。もし納税分が多いのであれば、喫煙者の理屈にも一つ筋が通るように思います。今回は加熱式タバコは考慮せず、紙タバコのみを対象として考えてみます。
財務省のホームページ(たばこにはどれくらいの税金がかかっているのですか? : 財務省 (mof.go.jp)では
タバコ20本入り580円のうち357円(タバコ税+消費税)が納税分となります(消費税も納税分と加えて考えることにします)。
私は喫煙者ではないので一日のタバコ消費量というのは実感としてわかりません。日本たばこ産業の調査(2018年「全国たばこ喫煙者率調査」、男女計で17.9% | JTウェブサイト (jti.co.jp))では平均喫煙本数は男性17.7本、女性14.4本となっております。喫煙率の男女比では男性の方が女性の3倍程度であるので、平均として一日消費量を17本として計算していきます。
1日あたり負担量は350×17/20≒300円となり、1か月あたり9000円、1年あたり108000円となります(年間約11万円も負担しているのは思っていたより多い印象です)。
喫煙期間については一応法的に可能な20歳から70歳までの50年で試算してみます。結果の総額負担量は540万となります(禁煙していたら車1台買えるというのは本当みたいですね)。この結果から非喫煙者と比較して540万円分については医療費の還元を受けることができるとも考えられます。
タバコとの相関関係が高い疾患としては呼吸器疾患(肺癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など)、心血管疾患(高血圧、狭心症、心筋梗塞など)、脳卒中、口腔・喉頭・食道癌などがあげられます。
ここでは一般的なイメージとも合致するということもあり、呼吸器疾患での負担分を考えてみます。
肺癌治療に関して手術可能である場合には手術への診療点数は60000-127000点:60-127万円となっております。入院費用については病院の施設基準は術後経過で異なるため、大雑把ですが手術費用のみでは確かにタバコの納税分より少ないです。
それでは手術以外の治療についてはどうでしょうか。肺癌の場合化学療法となりますが、最近の分子標的薬ではペムブロリズマブ(キイトルーダ)は100mg 242355円、ニボルマブ(オプジーボ)100mg 175211円、アテゾリズマブ(テセントリク)840mg 448853mgとなっております。詳細な投与方法はわかりませんが、ペムブロリズマブの場合に治療総額は1400万円くらいになるそうなので、60本/日程度タバコを吸う人は負担しているといえますが、それ以下では納税分以上の医療費が生じていると考えられます。その他の抗癌剤も10-20万円程度するので、それを加味すると肺癌にかかり、手術のみで済む場合以外では医療費の方が大きいと言えます。
その他に肺癌以外には主要な疾患として慢性閉塞性肺疾患があります。慢性閉塞性肺疾患に対する治療は吸入薬や在宅酸素療法があります。在宅酸素療法では2400点:24000円/月、288000円/年となります。20本/日の負担分では18.7年間在宅酸素療法を実施できます(思ったより長い期間可能なのですね)。
ほかに吸入薬に関しては約5000-9000円/月、6-14万/年となります20本/日の負担分では35-90年間可能となります(その前に寿命となりそうですね)。
結論として手術のみとなる場合や吸入薬のみの加療となる場合には納税分の方が多いこととなります(この意味においては納税分を還元を受けていると言えます)が、抗癌剤の使用や在宅酸素療法を併用する場合には納税分以上の医療費となりそうです。
あくまでも呼吸器疾患に限定したかなり大雑把な計算ですので、参考程度に見て頂ければと思います。個人的には今回の計算結果からは意外と納税分の方が多い人もいるのではないかと思っています。
また気ままに更新していこうと思います。
コメント